シンプルな形状ながら、見る者の視線を奪って離さない「渦流」。職人歴50年のベテラン・塚本衛さんの作品です。グラスを上から覗き込んでみると、面白いことに気が付きます。それは、グラスの外側だけでなく内側にも凸凹のついたスパイラル状の模様が施されていること。スジがある部分とない部分ではグラスの厚みに差があるため、光が複雑に屈折し、不思議な影や映り込みを生んでいます。
ハイボールの爽快さを際立たせるため、飲み口はできるだけ薄く。グラスの表面が凸凹になっているため、手触りや口当たりの面白さも愉しめます。
制作工程は驚きの連続。炉から取り出した灼熱のガラスをモールと呼ばれる金型に入れ、内側に彫られた縦方向のスジを転写します。その後、別の型の中でガラスをねじりあげるように回し、息を吹き込みます。そうすることで、転写されたスジが見事なスパイラル模様に変化し、グラスが成形されます。『モールを使って模様をつける手法は、いろいろ遊べて面白いんですよ。型の組み合わせを変えたり、変則的にねじったり。ここ数年、さまざまなパターンを試していました』。と、塚本さん。黄金色のハイボールがグラスの中に入ると、スパイラル模様が一層浮き立ち、新たな表情を見せます。『整然とした模様をつくるには、その日その時のガラスの硬さに応じて吹く息の強さや回す速度を微妙に調整する必要があります。目で見て手のひらで感じて。刻々と変化するガラスの表情に向き合いながら、瞬時に判断しています』。